銀メダルがゴールドに輝くとき
「私にとっては金メダルに見えます。」
「なぜなら、馨と一緒にここまで歩いて来たレスリング人生が
素晴らしいものだったから。」
「自分に感謝したいと思います。」
今も耳に残っているこのことば。
そう、伊調千春さんが、銀メダル獲得後、
インタビューに答えたことばだ。
私は、このことばに痛く感動した。
「伊調千春は成長したな。」
思わず、そうつぶやいてしまった。
アテネオリンピックのときに銅メダルで悔し涙を
流した姿は、そこにはなかった。
彼女は、結果ではなく、そこに至ったプロセスを
自ら評価したのだ。
これは、オリンピック選手だからこそ、なかなか
できないことだと思う。
4年間の苦しいトレーニングを経てやっと上り詰めた
決勝の舞台である。
姉妹で金を取ろうと、死に物狂いで練習をして来たに
違いない。
きっと、一番高い台に上がって手を振っている
自分の姿を、何度も夢にまで見たはずである。
それが、である。
社会主義国の選手たちは、国のために全力を尽くす。
だから、負けたときは呆然とすることが多い。
回りの評価を気にし、誉められたいと思う選手は
勝っても負けても涙を流すことになる。
自分に焦点を当てている選手は、冷静に自分を見つめる。
銀が金に見える瞬間。
この一瞬を真に味わえる人は、そう多くはいないはずだ。
プロセスを極めた者だけが、その境地にたどり着く。
伊調千春さんの胸の中には、永遠にゴールドに
輝くメダルが掛けられたに違いない。
道を極める。
改めて、その素晴らしさを教えられた。
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