声を失った歌姫
前回のイタリアオペラのプライベートレッスン時、異変が起きた。
先生が黄砂のためと思われる喉の炎症で、声が出なくなっていたのだ。
しかし、レッスンは行われた。
普通であれば中止だと思うが、そうしない所がプロの証だ。
「今日は私の声をカットして行います。」
「いつもどおり、歌って下さい。」
これらの会話は、全てスケッチブックへの筆談で行われた。
レッスンの開始時に、先生の声が出ないと知った時、これはたいへんなことに
なったと思った。
先生をいたわってではなく、先生のナビゲートなしてレッスンを進めなければ
ならない状況を捉えてだ。
つまり、この状況は自分で全て音を取って行くことを意味する。
ピアノの音を頼りに、先生のお手本なしに発声していく必要があるということだ。
普通の声の発声法ではないので、自分一人で行うには難しい部分がある。
必死で音を取った。
そして発声し歌った。
響いて返って来るのは、私の声だけ。
静かなレッスンルームに自分の声だけというのは、奇妙な感覚だった。
ひとしきり終わった後、先生がスケッチブックに何か書き始めた。
「いつもより素晴らしい出来です。」
「かえって感覚が研ぎ澄まされたのかもしれません。」
うれしいお言葉だ。
しかし、いつもの3倍疲れた。
そして、あっという間に時間が過ぎ去った。
それだけ集中していたということだろうか。
頼るものが突然なくなった時、本当の真価が問われる。
今回は、図らずも自らの真価を確認する機会が巡って来たという訳だ。
一応難は脱っした。
しかし、万全という訳でもなかった。
自分なりの課題が見つかったからである。
今後も、さらに上のレベルを目指して、努力を重ねたい。
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